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岐阜市内の「小さな神仏」の調査-地元文化の再認識のために-

発表原稿

国際文化学科 M.E K.S S.N N.A

Ⅰ はじめに(研究目的)
 岐阜県産業経済振興センターによる平成29年度の観光報告(担当者加藤和也主任調査役)では、観光客に魅力ある地域づくりの重要点として、地域が地元の観光資源を再認識して商品化すること、および住民が地域の素材の再発見を通じて自信や誇りを再認識することが指摘されています。同報告が観光資源や地域の素材として例示しているのは、白川郷の合掌造り、高山の祭り、長良川の鮎、関が原古戦場や杉原千畝など県外にもよく知られた、いわば「大きな」観光資源です。一方、岐阜県内の各地域には、その地域の人びとによって守られてきた神社や道端の仏像など、いわゆる「小さな神仏」もあります。これら「小さな神仏」の再発見も住民の自信や誇りを再認識する素材となるのではないかと考えられます。  私たちは岐阜市立女子短期大学が位置する岐阜市一日市場にある「小さな神仏」に関する祭りを調査して現状を把握し、どのようにすればそれら「小さな神仏」が、地域住民が自信や誇りを再認識する素材になり得るかを考えました。
Ⅱ 一日市場と神仏
 まず、調査地である一日市場とそこにある神仏について紹介します。現在の岐阜市一日市場にあたる地域には、江戸時代には一日市場村と、その南に小島村とがあり、明治8年(1875)に一日市場村が小島村を合併しました。現在の一日市場は、江戸時代の一日市場村と小島村という2つの村が合わさってできた地域です。  これが一日市場地域です。ここが岐阜市立女子短期大学で、お紅の渡しがここにあります。  一日市場を歩いて先ず目にとまる神仏には、小柳神社と浄土真宗光顔寺、それに八幡神社があります。このうち小柳神社は江戸時代の一日市場村にあたる地区にあり、現在でも一日市場の神社として住民によって守られ、維持されています。一方、八幡神社は江戸時代の小島村にあたる地区にあり、現在ではその神社を守ってきた人びとの高齢化によって、維持が困難になっていることが今回の調査でわかりました。  これらの社寺よりもさらに「小さな神仏」として、水防詰所のそばに地蔵尊と不動尊が祀られてあり、またダイヤ製菓の前にも地蔵尊が祀られています。水防詰所そばの地蔵尊と不動尊は、昨年までは一日市場の老人会が祭りを行ってきました。ダイヤ製菓の前の地蔵尊は、事故で亡くなったその会社のお子さんのために会社の人が祀ったものという話を聞きました。これらの神仏のほかに、水の神を祭る行事として川祭りが行われてきました。  以上のような一日市場にある神仏のうち、今回は、維持が困難になっているという八幡神社、老人会が祭りを行ってきたという地蔵尊と不動尊、それに川祭りに焦点を当てて報告します。  
Ⅲ 状況報告
 私たちは9月から10月にかけて一日市場の住民の方々から、八幡神社、地蔵尊の祭り、不動尊の祭り、川祭りについて話を聞きました。その結果を報告します。
(1) 八幡神社
 最初に八幡神社について報告します。一日市場の小島地区にある八幡神社は、現在、小島地区にある7軒の家で祀っています。祭りとしては2月8日の節祭りと、4月の第一日曜日に祭りを行っています。4月の祭りは、従来は10月15日に行っていたのを、岐阜祭りと同じ日に変更して4月に行うようにしたものです。従来の祭りの日であった10月14、15日には、現在では幡だけを立てています。  現在は7軒で祀っていますが、2年くらい前までは8軒でした。8軒の家が一年交代で当番になり、供え物など祭りの準備をしてきました。神社の費用として当番が、以前は8軒から1か月2000円ずつ集めていましたが、現在は年間1万円ずつ集めています。また2月と4月の祭りの一週間前の休みの日には、8軒で神社の掃除をしてきました。  8軒から1軒抜けて7軒になったのは、抜けた家の人が高齢で当番ができないという理由でした。残った7軒の人も、高齢化に加えて、後継ぎがいない、男性当主がいない、などの理由で、今後神社を維持することは難しいと考えています。他の神社に預かってもらえないかと考えて、他の神社に相談したこともありますが、守っていける人がいるうちは守らなければいけないといわれて、預かってもらえなかったそうです。
(2) 地蔵尊、不動尊
 地蔵尊は水防詰所のそばに、不動尊と並んで祀られています。地蔵尊の祭りは8月24日に行っていましたが、現在では、それに一番近い日曜日に行っています。今年は8月19日に行いました。地域の安全祈願を目的として行われています。  昨年までは一日市場の老人会によって掃除や祭りの用意がされてきました。老人会が各家をまわり、一軒あたり100~500円を集めて、それで提灯など祭りに必要なものを買っていました。ほとんどの家が500円を出していたそうです。しかし、その老人会も解散したので、今年からは一日市場の自治会が地蔵尊の祭りを行っています。  以前は祭りの日に子供の姿も大勢見られました。祭りが終わると、子供たちは我先にと提灯をちぎって持って帰っていたそうです。現在では子供の参加が減少していることから、子供たちにも参加してもらえるように回覧板などを使って宣伝しています。  不動尊の祭りは毎年3月に行われています。この祭りも昨年まで老人会が掃除や準備を担当し、家々から多くの場合500円ずつ集めていました。現在は自治会が担当しています。
(3) 川祭り
 川祭りは水神を祀って、川での安全や水害防止を祈願するために行われます。水神というご神体はありませんが、今年は7月19日に水防詰所の前の長良川の堤防で行われました。  以前は青年団が主催していました。長良川に2艘の舟を出したり、「おばばのうた」という歌を歌ったり、提灯を飾ったりするなど、子供も含めて大勢が参加し、盛大に行われていました。その後、老人会が主催するようになり、掃除したりお金を集めてまわったりしていましたが、老人会が解散した後、現在では自治会が主催して祭りが行われています。以前には子供も大勢参加して、配られたお菓子を持ち帰ったり、飾られた提灯をちぎって持ち帰ったりと賑やかでした。最近では子供の姿は見られず、今年は自治会役員4人と元老人会の人を合わせて15人くらいの参加が見られただけでした。自治会の人は子供にも参加してもらいたいと考えています。 Ⅳ それぞれの祭りから見えてくる問題点  以上報告したことから総じて言えることは、いずれも継承が難しくなってきており、今後も引き継がれていくかどうか、現在まさにその分岐点にあるということです。八幡神社はその神社を守る人々の高齢化と跡継ぎの不在によって、自分たちによる継承を諦めようとする考えも強くなっています。地蔵尊、不動尊、川祭りでは、これまでこれらの祭りを担当してきた老人会も、そのメンバーの高齢化によって解散してしまい、自治会が祭りの実施を引き継いでいます。自治会の人々には、これらの祭りを若い世代へ継承していきたいという願いがありますが、子供の参加が少ないことを心配して、子供たちにも関心を持ってもらいたいと思っています。
Ⅴ おわりに(地域への関心を強めていくために)
 本研究では、一日市場の「小さな神仏」に関する祭りの現状を調査してきました。その中で、祭りの実施に携わっている人々の間には若い世代への継承、子供たちの参加という願いや期待があること、その一方で現在、それが難しい状況にあることがわかりました。これら「小さな神仏」を、地域住民が自信と誇りを再認識するための素材とするためには、まずは一日市場の人々とりわけ子供たちに、これまで守り伝えられてきた地元の「小さな神仏」への関心をもってもらうことが第一歩になると考えます。  そのためには、地元の「小さな神仏」を題材として新しい物語を創作し、それを朗読会や紙芝居、人形劇で子供たちに紹介するという取り組みは如何でしょうか。これは調査を進めていく中、郷土史研究とまちおこしグループの「わんわん会」の方から、他地域で地蔵尊の物語を創作し発表したところ、地元の人々に関心をもってもらえたという事例がある、との話を伺い、参考にさせていただきました。  今回、聞き取り調査を行っていく中で、子供たちが祭りで掲げられた提灯を我先にちぎって持ち帰っていたという話や、地蔵尊に祈願して子供を授かったという話を聞きました。さらに、一日市場には「お紅の渡し」があります。今回の調査で、2005年(平成17年)まで忠節から揖斐や谷汲まで電車が通っていた頃には、人々は尻毛で電車を降りて、お紅の渡しまで歩き、渡し舟に乗って鏡島弘法に参詣していたという話を聞きました。つまり一日市場は、揖斐や谷汲から鏡島弘法に向かう参詣の道の要所であったと言えます。また、これまでの研究によれば、江戸時代初期から明治期の中ごろまで、加納宿からお紅の渡しを渡って北方村に至る道は加納道(かのうみち)とよばれ、にぎわっていたということであります。このようなことを考えると、「小さな神仏」に関する物語をつくるための材料はあると思います。  さらに私たちは、このような取り組みを“子供たち自身”に行ってもらうことで、興味・関心を持ってもらうきっかけの一つにできないかとも考えています。地元の「小さな神仏」について子供たちに物語を創作してもらい、学校や公民館などで発表会を行ってみるのはどうかと考えます。そうすることで、子供たちに地域や祭りに対して関心を持ってもらえると同時に、地域を盛り上げていくことを若い世代につなげていくことが可能となってくるのではないでしょうか。

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